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岡山地方裁判所 平成11年(ワ)1180号 判決 2000年12月08日

原告

山崎智廣

被告

山本和緩

主文

一  被告は、原告に対し、金二五五九万七七九八円及びこれに対する平成九年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金四五〇〇万円及びこれに対する平成九年九月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が後部座席に同乗していた原動機付自転車と被告運転の普通貨物自動車との間に起きた交通事故により損害を被ったとして、原告が、被告に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償請求として、金四五〇〇万円及びこれに対する右交通事故の日である平成九年九月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  交通事故の発生

道本寿宏(以下「道本」という。)が運転し原告が後部座席に同乗していた原動機付自転車と被告運転の普通貨物自動車との間に、次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 平成九年九月二四日午後三時三六分ころ

(二) 場所 岡山県倉敷市北畝五丁目二一番五号先交差点(以下「本件交差点」という。)

(三) 道本運転車両 原動機付自転車(倉敷市む一三九二〇。以下「道本車」という。)

(四) 被告運転車両 普通貨物自動車(岡山四六て二三七七。以下「被告車」という。)

(五) 事故態様 右日時に、道本車と被告車が本件交差点内で衝突し、これにより原告は負傷したもの。

2  責任

被告は、本件事故に際し、前方の安全を十分に確認する注意義務があったのにこれを怠り、漫然と走行した過失により本件事故を発生させたものであるから、原告に対し、民法七〇九条に基づき、原告が本件事故により被った損害を賠償する責任を負う。

3  原告の受傷等

原告は、本件事故により、外傷性くも膜下出血、脳幹損傷、右血気胸、右上下肢多発骨折、肋骨骨折等の傷害を負い、水島第一病院に入院して治療を受けるなどしたが、平成一一年三月一九日に症状固定となり、<1>外傷性くも膜下出血の後の抑うつ状態(頭部神経症状)、<2>右大腿骨骨折後の右下肢一・五センチメートルの短縮、<3>右下肢痛、<4>右第五指の機能障害(腱側可動域が二分の一以下に制限される。)、<5>右第四指機能障害、<6>右膝不安定性、<7>右上肢及び右下肢の創痕があり、これら後遺障害の程度につき、自賠責保険においては併合一三級と認定された。

4  損害の填補

本件事故による原告の治療費のうち、水島第一病院での治療費につき、一二〇万円が自賠責保険の傷害分として支払われ、二三万三〇五〇円が高額医療費として支払われたほか、後遺障害慰謝料として一三九万円が原告に対して支払われ、本件事故による原告の損害のうち合計二八二万三〇五〇円が填補された。

二  争点

1  原告の損害

(原告の主張)

(一) 治療費

原告は、本件事故により負傷し、次のとおりの治療を余儀なくされ、平成一一年三月一九日に症状固定となったが、その後も岡山国立病院に通院した後、同病院に右足プレート抜釘のため一〇日間入院し、さらに、岡山川崎病院に経過観察のため通院している。

(1) 水島第一病院入院(平成九年九月二四日から同年一〇月三一日まで)

(2) 岡山療護センター入院(平成九年一〇月三一日から平成一〇年一月二二日まで)

(3) 水島第一病院通院(平成一〇年一月二三日から平成一一年三月一九日まで)

原告は、これらの治療のうち、水島第一病院での治療につき、治療費として一四七万五三七九円の支払を余儀なくされた。

(二) 入院雑費

原告は、右(一)のとおり、水島第一病院に三八日間、岡山療護センターに八四日間、国立岡山病院に一〇日間の合計一三二日間入院し、その間一日当たり二〇〇〇円の入院雑費を要し、その合計は二六万四〇〇〇円である。

(三) 入通院慰謝料

右入通院治療を余儀なくされたことにより原告が被った精神的苦痛を慰謝するための慰謝料としては二五〇万円が相当である。

(四) 休業損害

原告は、平成九年三月に倉敷市立福田中学校を卒業し、倉敷市の梶原架設においてとび職として稼働していた。しかるに、原告は、本件事故により前記入通院治療を余儀なくされ、本件事故発生の日である平成九年九月二四日から症状固定日である平成一一年三月一九日まで一八か月間収入がなかった。この間の休業損害を、賃金センサス平成九年男子一六歳から一七歳の年収額一九八万六八〇〇円を用い、これを一二か月で除した一か月当たりの休業損害に一八か月を乗じて算出すると、原告の右一八か月分の休業損害は二九八万〇一九九円(一円未満切捨て。以下、金額については、すべて一円未満切捨てとする。)となる。

(五) 後遺障害逸失利益

前記争いのない事実3の<1>ないし<7>の原告の後遺障害のうち、<1>の外傷性くも膜下出血の後の抑うつ状態(頭部神経症状)は、自動車損害賠償保障法施行令二条の等級表(以下「等級表」という。)九級一〇号の「神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当し、その余の後遺障害とあわせて等級表八級に相当する。

原告は、本件事故当時一六歳の健康な男子であり、とび職として働いていたのであるから、原告の逸失利益の計算においては、就労期間を六七歳までとし、その期間、賃金センサス平成九年中卒男子労働者全年齢平均年収五一〇万一七〇〇円を得られたものと考え、右後遺障害による労働能力喪失率を四五パーセントとすると、原告の逸失利益は、次の式のとおり五四五二万三五〇〇円となる。

五一〇万一七〇〇円×(二四・七〇一九[六七歳までの五〇年に対応する新ホフマン係数]-〇・九五二三[一八歳までの一年に対応する新ホフマン係数])×〇・四五=五四五二万三五〇〇円

(六) 後遺障害慰謝料

原告の右後遺障害に対する慰謝料としては九〇〇万円が相当である。

(七) 弁護士費用

原告は、本件事故による損害賠償金につき、被告から任意の支払を受けられないため、本訴の提起及び遂行を原告訴訟代理人に委任し、弁護士費用として六〇〇万円の支払を約した。

(八) 請求額

右(一)ないし(七)の損害合計額七六七四万三〇七八円から前記争いのない事実4の損害填補額二八二万三〇五〇円を控除すると、七三九二万〇〇二八円となるところ、原告は、被告に対し、右損害の一部請求として四五〇〇万円及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告の主張)

争う。右(五)及び(六)については等級表一三級に相当するものとして計算されるべきである。

2  過失相殺等

(被告の主張)

本件事故は、原告が道本車に同乗して走行中、ヘルメットをしていなかったことからオートバイを運転して警ら中の水島警察署の警察官に停止を求められたにもかかわらず、これを無視して逃走中、本件交差点には一時停止の標識があるのにこれに従わず、そのまま幹線道路に進入して被告車と出合頭に衝突したものである。道本は、無免許で、道本車は盗難車であり、その発覚を恐れて警察官の追跡を逃れるため、速度を上げて一時停止標識を無視して優先道路に進入する無謀運転をしていたもので、本件事故における道本の過失割合は九割を下回ることはない。原告は、本件事故の発生時点で道本車を運転してはいなかったものの、原告と道本がごく親しい関係にあったこと等から、本件事故に際して、原告と道本が道本車の運転を交代しながらドライブを楽しんでいた可能性は高く、少なくとも、原告は、道本が無免許で道本車が盗難車であることを認識していた。したがって、原告は、単なる好意同乗者にとどまらず、道本の無謀運転に共同加功していたと評価されるべきであり、道本の過失は、被害者側の過失の法理により、全面的に原告にも帰せしめるのが相当である。

また、原告は、本件事故当時、道本が無免許であること及び道本車が盗難車であることを認識していたのであるから、外形的に事故発生の危険を予測できたというべきであり、原告は、二人乗りが禁止されている原動機付自転車にヘルメットを着用しないまま同乗していたものであり、このことが原告の損害の発生・拡大に大きく寄与したことは明らかであるから、仮に本件事故における道本の過失を全面的には原告に帰せしめ得ないとしても、右各事情を過失相殺要因として、少なくとも八割の減額がなされるべきである。

(原告の主張)

本件事故の発生について原告に過失はなく、原告の損害の発生・拡大についても、原告自身に帰責原因はない。

第三争点に対する判断

一  争点1(原告の損害―ただし、弁護士費用を除き、かつ過失相殺及び損害の填補前のもの)について

1  治療費

前記争いのない事実3の事実、証拠(甲三、一八の1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、外傷性くも膜下出血、脳幹損傷、右血気胸、右上下肢多発骨折、肋骨骨折等の傷害を負い、本件事故の日である平成九年九月二四日から同年一〇月三一日まで水島第一病院に入院して治療を受け、その間の治療費として一四七万五三七九円を要し、同額の損害を被ったことが認められる。

2  入院雑費

証拠(甲三、七ないし九)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故による受傷のため、平成九年九月二四日から同年一〇月三一日まで水島第一病院に入院し、同日から平成一〇年一月二〇日まで岡山療護センターに入院したほか、平成一一年八月二〇日から同月三一日まで川崎医科大学附属川崎病院に右上腕骨骨折部、右大腿骨骨折部及び右下腿骨骨折部の抜釘手術のため入院し、右合計一三一日間の入院の間、入院雑費として少なくとも一日当たり金一三〇〇円を要したものと推認でき、合計一七万〇三〇〇円が本件交通事故による入院雑費相当額の損害と認められる。

3  入通院慰謝料

証拠(甲五、七)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、右2で認定した各入院治療のほか、平成一〇年一月二三日から症状固定日である平成一一年三月一九日まで水島第一病院に通院して治療を受けた(実通院日数八日間)ことが認められる。

原告の右受傷内容、入通院期間、治療経過に鑑みれば、本件事故に基づく傷害によって原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、金一九〇万円が相当である。

4  休業損害

証拠(甲四、原告法定代理人親権者母山崎照子[以下「原告法定代理人」という。])及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故当時、一六歳の健康な男子であって、平成九年三月に倉敷市立福田中学校を卒業した後、大阪の親類の下で型枠大工として働き、その後、本件事故の約二か月前から倉敷市の梶原架設においてとび職として働くようになり、一か月二〇万円前後の収入を得ていたが、本件事故により前記のとおり入通院治療を余儀なくされた上、この間、本件事故による外傷性くも膜下出血の後の頭部神経症状等により、本件事故発生の日である平成九年九月二四日から症状固定日である平成一一年三月一九日まで働くことができず、収入を得られなかったものと認められ、原告は、この間、本件事故がなければ少なくとも年収額にして賃金センサス平成九年産業計・企業規模計・中卒男子一六歳から一七歳の年収額一九八万六八〇〇円を得ることができたものと認めるのが相当であるから、右年収額を三六五日で除した一日当たりの休業損害に右期間の日数である五四二日を乗じて原告の休業損害を算出すると、二九五万〇二六一円となる。

5  後遺障害逸失利益

(一) 証拠(甲二ないし一二、一九ないし二一、原告法定代理人、調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故による原告の頭部神経症状につき、次の事実を認めることができる。

(1) 原告は、本件事故発生直後に水島第一病院に入院した時点では、外傷性くも膜下出血、脳幹損傷等により意識がなく、高次脳機能については不明であったところ、その後、徐々に意識を回復するにつれて、不穏状態や幼稚な言動が見られた。平成九年一〇月一三日の頭部CT検査では、右前頭部に硬膜下水腫の貯留が認められたが、脳実質内に明らかな病変は認められなかった。そのころの原告は、小学四年生ないし五年生程度の知能と思われる状態であった。

(2) 原告は、平成九年一〇月三一日に岡山療護センターに転院したところ、その際の頭部CT検査では、やはり右前頭部に硬膜下水腫が認められ、軽度の意識障害及び失見当識があり、本件事故以前の記憶は残存していなかったが、入院期間中に次第に意識障害は消失して意識清明となり、これに伴って、意識障害下に存在したものと思われる知能低下も回復した。原告は、平成一〇年一月二〇日の同センター退院時には、意識障害は消失していたが、情緒及び性格面の不安定さが残った。

(3) 原告は、平成一〇年四月一二日から平成一一年二月一七日まで京都医療少年院に入院し、同院での検査では新田中B式によるIQが六六で、記憶障害が認められ、健忘症状、抑うつ状態のほか、衝動性や自制力低下、幼稚化等の性格変化が認められたが、同院入院中は、規則に基づく療養生活と薬物(気分安定化剤としての抗けいれん剤)療法により興奮状態となることはなく、抑うつ症状によって内的に不安定となることがある程度の状態であった。

(4) 原告は、平成一一年三月一九日に症状固定となったが、その時点では、頭部神経症状として外傷性くも膜下出血の後の抑うつ状態があるものと診断され、くよくよ悩む、他人が自分の悪口を言っている気がするといった自覚症状があった。

(5) 原告は、平成一一年四月に後楽館高校に入学したが、原告自身自分で自分の気持ちを抑えることができず、教師に暴力を振るいそうになったこともあって、退学を勧められ、平成一二年一月に同校を自主退学し、その後、種々アルバイトをしているが、勤務先で物覚えが悪いとの指摘を受け、勤務先を転じており、家庭においても、集中力に欠け、感情の起伏が激しい状態にある。

(二) 右の事実によれば、原告の頭部の神経症状は、本件事故直後は重篤なもので、水島第一病院入院中は意識障害とそれに伴う知能の低下が見られたが、岡山療護センター入院中に意識障害が回復するにつれて知能レベルも回復し、同センター退院時には、意識障害は消失して、情緒及び性格面の不安定さが残り、京都医療少年院入院においては、興奮状態となることはなかったが、抑うつ症状は残り、症状固定時においても、抑うつ状態が残っていて、これにより、服することができる労務が相当な程度に制限されるとまでは認められないものの、抑うつ状態により集中力を欠き、情緒が不安定となる点で、等級表一二級一二号の「局部に頑固な神経症状を残すもの」に相当する後遺障害があるものと認められる。

(三) 証拠(甲二、五ないし九)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故により、右の頭部神経症状のほかに、右大腿骨骨折後の右下肢一・五センチメートルの短縮、右下肢痛、右第五指の機能障害(腱側可動域が二分の一以下)、右第四指機能障害、右膝不安定性及び右上肢及び右下肢の創痕の後遺障害が残り、このうち、右下肢短縮の点は「一下肢を一センチメートル以上短縮したもの」として等級表一三級九号に該当し、右第五指の機能障害(腱側可動域が二分の一以下)は「一手のこ指の用を廃したもの」として等級表一四級六号に該当し、その余の後遺障害は等級表の後遺障害には該当しないものと認められるから、本件事故による原告の後遺障害は、前記の一二級相当の頭部神経症状に右各後遺障害を併合して全体で等級表一一級に相当するものと認められる。

(四) 原告は、前記のとおり、本件事故当時、一六歳の健康な男子であって、平成九年三月に倉敷市立福田中学校を卒業した後、型枠大工、とび職として働き、一か月二〇万円前後の収入を得ていたことが認められるから、原告は、賃金センサス平成九年産業計・企業規模計・中卒男子労働者全年齢平均年収五一〇万一七〇〇円程度の年収を就労可能期間を通じて得る蓋然性があったものと認められ、右年収額を逸失利益算定の基礎とするのが相当であり、前記後遺障害の程度に鑑み労働能力喪失率を二〇パーセントとし、原告が右のとおり本件事故当時既に働いて収入を得ていたことから、症状固定時の原告の年齢である一七歳から六七歳までの五〇年間を労働能力喪失期間とするのが相当であり、五〇年に対応するライプニッツ係数一八・二五五九を乗じて年五分の割合による中間利息を控除すると、原告の後遺障害による逸失利益は、次の式のとおり、一八六二万七二二五円となる。

五一〇万一七〇〇円×〇・二×一八・二五五九=一八六二万七二二五円

6  後遺障害慰謝料

原告の右後遺障害の内容及び程度、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件事故による後遺障害により原告が受けている精神的苦痛に対しては、金三九〇万円をもって慰謝するのが相当である。

7  以上によれば、本件事故により原告に生じた損害のうち、弁護士費用を除いた部分の合計は、二九〇二万三一六五円(過失相殺及び損害填補前)となる。

二  争点2(過失相殺)について

1  被告は、道本が、オートバイに乗った警察官の追跡を逃れるため、速度を上げて一時停止標識を無視して本件交差点に進入する無謀運転をし、原告は、道本の無謀運転に共同加功していた旨主張するが、証人里見智仁の証言によれば、オートバイに乗車して警ら中の警察官は、本件事故前、道本及び原告がヘルメットを着用せずに道本車に二人乗りしているのを発見して追跡したものの、約二キロメートル追跡した後、それ以上の追跡は危険であると判断して追跡を中止しており、その後しばらくして発生した本件事故の時点では道本車は警察官に追跡されている状況にはなかったこと、本件事故時の道本車の速度は時速二〇キロメートルないし二五キロメートルに過ぎなかったことが認められ、道本車が本件事故の直前に速度を上げて一時停止標識を無視して本件交差点に進入したことを認めるに足りる証拠はなく、また、本件事故時の道本の運転操作に原告が支配ないし影響を及ぼしていたことを認めるに足りる証拠もないのであって、被告の右主張には理由がない。

2  他方、証拠(乙一、証人里見智仁)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故の際、二人乗りの禁止された原動機付自転車の後部に同乗するに当たってヘルメットを着用していなかったことが認められるところ、原告は、前記のとおり、本件事故により外傷性くも膜下出血、脳幹損傷といった頭部への重篤な傷害を負い、これにより原告の後遺障害の中でも最も程度の重い障害を頭部に残すことになったことからすれば、原告が本件事故の際にヘルメットを着用していたならば、受傷や後遺障害の程度が軽減されていたことは容易に推認されるところであり、したがって、原告のヘルメット不着用が本件事故における原告の損害の拡大に寄与したものと認められる。ヘルメットの着用について、道路交通法上は、そもそも原動機付自転車の場合には同乗が想定されておらず、自動二輪車の場合も運転者が同乗者に対してヘルメットを着用させる義務を負うものではあるけれども、同乗者自身において、原動機付自転車に同乗するに際してできる限りの安全対策を自ら図るべきであって、これをしないで、その結果損害を拡大させた場合には、これを同乗者の過失として過失相殺をするのが損害の公平な分担の理念に合致するところである。

3  よって、本件事故については、原告がヘルメットを着用していなかった点が右のとおり原告の損害を拡大させたものと認められるから、これを原告の過失として過失相殺すべきであり、本件においては、原告に生じた前記損害の一割を控除した額について、被告に賠償の責めを負わせるのが相当である。

三  損害の填補

本件事故による原告の損害に対しては、前記争いのない事実4のとおり二八二万三〇五〇円が填補されているから、前記一4のとおりの損害合計額二九〇二万三一六五円に対して右二の過失相殺によりその一割を減じた額である金二六一二万〇八四八円から、右損害填補額を控除すると、残額は金二三二九万七七九八円となる。

四  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告法定代理人は、本件訴訟の提起及び遂行を原告訴訟代理人に委任し、相当額の費用及び報酬の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の性質、審理経過、認容額に照らすと、原告が被告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は二三〇万円と認めるのが相当であり、これを併せると原告が被告に賠償を求め得る損害額は二五五九万七七九八円となる。

第四結論

よって、原告の請求は、被告に対し、金二五五九万七七九八円及びこれに対する本件事故の日である平成九年九月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却する。

(裁判官 村田斉志)

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